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第29回
世界最強のにおいマスキング物質(その2)

世界最強の異臭物質として有名な2,4,6-トリクロロアニソール(TCA)は、超微量(ppt)の濃度で存在すると、水をはじめ種々の飲料や食品で、異臭クレームを引き起こします。

我々製缶メーカーでも、1980年代に木製パレットが原因で異臭事故を発生させ、多くの損害を出しました。 しかし、そこで得た、TCAの発生メカニズムの知識や、微量異臭物質の分析技術は、異臭分析や異臭解明のための貴重なノウハウとして大和製罐グループの中で生き続けています。

異臭事故後すぐに、二度とTCAによる異臭を発生させないように、木製パレットを全廃し、樹脂製パレットを導入しました。 また、機器分析よりも感度が良い、人によるにおいの評価で、異臭発生を水際で防止する仕組みも完成させました。
しかし、外部からの依頼では、いまだにTCAが原因の異臭事故が無くなっていません。 そして、食品業界だけではなく、建築関係や家電製品などからもTCAが検出され、異臭事故となっているのです。

この様に、TCAだけが、食品だけでなく多くの業界で異臭物質として検出されて、異臭事故を引き起こしているのか、いつも疑問に思っていました。 その答えとして、漠然とではありますが、TCAの閾値が低いことや塩素系の化合物であることなどと考えていました。

では、閾値が低いとはどういうことなのか。 例えば、嗅覚細胞の受容体と特別な相互作用をもつのではないか。
これらの疑問を持って、大阪大学の倉橋先生と共同研究を始めました。 倉橋先生のご専門は、マスキング物質の探索です。 そこで、手始めにと、TCAのマスキング作用を測定しました。 すると何とTCAのマスキング作用の凄まじいこと!
これが、今回の研究成果にたどり着いた経緯です。

今回の研究内容や測定原理に関しては、大阪大学のホームページや、大和製罐(株)のホームページをご覧ください。
大阪大学 http://resou.osaka-u.ac.jp/ja/research/2013/20130917_1
大和製罐 http://www.daiwa-can.co.jp/news/130926.html


1980年のTCAによる異臭事故の時に、TCAが混入した缶コーヒーを、警察犬の様になって嗅ぎ分けている自分たちの姿を今でも忘れることはできません。 そして、検査していた全員が、TCAの混入したコーヒーは、正常品のコーヒーよりも香りが弱くなっていると答えていたことも、鮮明に記憶に残っています。

今回の研究成果で、やっとこの疑問が解け、34年ぶりに胸がすく思いです。
人の嗅覚細胞には、別々の臭い物質に反応するものが、数百種類あると言われています。 図1の様に、臭い物質がある特定の嗅細胞に刺激を与え、それぞれどの細胞が活性したかを脳で判断して、食品の種類や良否を判別します。

図1. においの伝達経路
匂い刺激の伝搬
臭い物質の刺激が電気信号に変換され、糸球に伝搬する。
匂い刺激の伝搬
TCAの作用
全ての嗅細胞において、電気信号への変換がTCAにより阻害され、糸球への伝搬が阻害される。
TCAの作用
図1. においの伝達経路

TCAのマスキング作用は、全種類の嗅覚細胞で、においを感じる信号を遮断したり弱くすることです。
これで、TCAが微量存在し、食品や飲料の香りが弱くなるということも納得できました。

ただし、TCA自体も非常に低濃度(水中閾値は数ppt)でカビ臭がする物質です。 今のところ、マスキング作用の凄さと、閾値の低さがどうつながるのか等、異臭物質が、非常に低い閾値をもつことの答えはまだ出ていません。
においの研究にまだまだ終わりは無いようです。

 
(2014年1月) 
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