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私が子供の頃(1960年(昭和40年)代)は、木の香りや匂いは、大変身近なものでした。 たとえば木造の校舎、木造の家屋、近所の製材所、リンゴの木箱、おがくず、魚のトロ箱、蒲鉾板、鉛筆、鉛筆の削りカスなど、色々な場所や物で木の香りを感じることができました。
では、最近どうなのか?と考えると、木の香り、特に良い木の香りを嗅ぐ機会が少なくなった様に感じます。
なぜ木の香りを感じる機会が少なくなったのでしょう? 昔は木製品がたくさん使われていたのですが、最近は樹脂や金属製のものに代わっているからでしょう。
また、最近の木材の匂いを嗅いで感じることなのですが、同じ種類の木でも昔に比べて香りが弱くなっているような気がします。
写真1は、中学生(1967年)の時に買ってもらった天体望遠鏡です。 木の箱と木の三脚が古さを物語っています。 箱を開けると、懐かしい木の香りが感じられました。
木造校舎の様な、夏の古い公民館に入った時の様な印象です。
この木の箱に使われているのは、ラワン材です。 ラワン材と言えば、ラワンの木があるからそう呼ばれているのかと思ったのですが、実はラワンと言う木はなく、フィリピン産のフタバガキ科の木を総称して、現地の人が呼んでいる名前でした。 |
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レッドラワン、イエローラワン、ホワイトラワン等、木地の色で種類分けもしています。 昔のラワンは、この望遠鏡の箱もそうですが、少し赤みを帯びた色だったと記憶しています。
アメリカでは、ラワン材のことを総称して、フィリピン・マホガニーと呼ぶ様です。 日本では、フィリピン以外から輸入される同種の木材も含めて、ラワンと呼んでいる様です。
今回、45年前のラワンと国産スギの木、そして最近のラワンの香りを比べてみることにしました。 45年前のラワンは、木造校舎の香りがします。 国産スギの香りは、オレンジの皮の様な柑橘系の香りと昔の製材所の様な香りがします。
最近のラワンは、木の香りが殆どなく、ツンとするような薬品臭とカビ臭(世界最強の異臭物質である2,4,6-トリクロロアニソール臭)がしました。
では、いったい香り成分の何が違うのでしょうか? GC-MSで分析してみることにしました。
木の香り成分は、写真2の様に、削った木をヘッドスペースバイアルに入れ、GLサイエンス社のモノトラップを使用してサンプリングしました。 バイアルを加熱して、香り成分を気化させ、モノトラップに吸着させます。
そして、香り成分を吸着したモノトラップを、ジエチルエーテルで抽出し、濃縮後GC-MSで分析しました。
分析結果を、図1に示しました。 |
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図1. GC-MS分析結果 |
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45年前のラワンからは、カリオフィレン や コパエン 等のセスキテルペン類(木の香り成分)が検出されました。 スギ木部からは、セスキテルペン類と、オレンジ等柑橘系の香りの成分である、リモネン や ピネン 等のテルペン類が検出されました。 それでは、木の香りのしない最近のラワンはどうでしょう。 GC-MSの結果でも、セスキテルペン類やテルペンル類は検出されていません。
そして、残念ながら世界最強の異臭物質である2,4,6-トリクロロアニソールと防カビ剤の2,4,6-トリクロロフェノールが検出されました。
この様に、最近の生活環境で木の香りがしないのは、木材製品が少なくなったのに加え、加熱乾燥等による処理で、木の香り成分が無くなっていることが、原因の一つであるようです。
木の種類が違えば、本来はそれぞれ違った香りがするはずです。 製造上、木に香りがなくなってしまうのが避けられないかもしれませんが、世界最強の異臭物質を始め、「悪い臭いだけは嗅がなくてすむように!」と願うのは、私だけでは無いと思います。
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