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筆記具の匂いで気になる物と言えば、先ず思いつくのは墨汁でしょうか。 油性のマーカーも色々なメーカーのものがあり、それぞれ独特の匂いがします。
水性絵の具の匂い、クレヨンの匂い、最近は嗅がなくなりましたが、万年筆のインキの匂いも記憶に残っています。 また、鉛筆を削る時にも木や塗料の独特の香りがします。
どれもこれも、パソコンや携帯電話で文章をやり取りする今日では、嗅ぐ機会がめっきりと少なくなってしまいました。
今回の臭いは、におい工房の渡辺さんからの疑問でした。
「水性ボールペンから足の裏の臭いがするのですが!」とのことで、早速サンプルの臭いを嗅がせてもらいました。 正しく足の裏の臭い、イソ吉草酸臭が強く、そのボールペンからするではありませんか。
どうして? 理由はともかく、早速分析することにしました。 |
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市販の水性ボールペン |
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分析の前処理を考えることにしました。GC-MS分析を行う前処理としては、溶剤抽出がありますが、インキには顔料や樹脂など不揮発成分が入っているので、この方法は使えません。
そこで、インキの臭い成分だけを気化させて、そのヘッドスペースを分析することにしました。 インキ成分以外の物質が邪魔にならないように、紙ではなく、アルミフォイルに字を書きました。
写真2の様に、文字を書いたアルミフォイルを小さなバイアル瓶に入れ、加熱してそのヘッドスペースをGC-MSで分析しました。
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水性ボールペン |
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アルミフォイルに書く
(低バックグラウンド) |
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加熱後HSV分析 |
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分析結果は、図1に示しました。予想通り、足の裏の臭い物質である、イソ吉草酸が検出されました。
今回も割と簡単に分析できましたが、これも官能評価で異臭の原因物質が推定できていたからでした。
ここでも、異臭分析には官能評価が大切で、異臭を物質名で表現することが重要であることが再認識できました。
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図1. GC-MS分析結果 |
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我々日本人にとって、筆記道具と香りは、小さい時からの思い出として、大切に記憶しているものの一つです。 年賀状でお世話になる筆ペンも、墨汁の匂いがほんのり香れば、書く人と受け取った人に、清々しい気持ちを伝えてくれるかもしれません。
追伸:
今回分析したボールペンは、この臭いの為なのか廃番になっており、同じメーカーの物を取り寄せたのですが、残念ながら?イソ吉草酸臭は感じられませんでした。
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