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少し前から、あるメーカーの油性マーカーペンの匂いが気になっていました。 その油性マーカーペン(写真1)には黒と赤があるのですが、黒からはベンズアルデヒドの匂い、以前コラム(第4回:黄色い花の物語)で書いた杏仁豆腐や桜の葉っぱの匂いが感じられるのです。
桜の花が散った後に出てきた葉を少し摘んで、指で(写真2)の様に揉むと感じられる匂いが、まさしく「ベンズアルデヒド」の匂いです。
今回は、マーカーペンの匂い物質と、黒と赤の違いを調べてみる事にしました。 分析に使用したのは、日本電子のヘッドスペースGC-MSと言う装置です。
アルミ箔にマーカーペンで字を書いて小瓶に入れ、セットすれば分析結果が出てきます。 |
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右のチャートが分析結果です。 ベンズアルデヒドが検出されています。 含まれている量としては、ベンジルアルコールの方が多いようです。 (検出されているピークの面積が物質の量と比例します。)
しかし、ベンズアルデヒドの方が匂いは強いのです。 専門的にはこれを「ベンジルアルコールと比較するとベンズアルデヒドの閾値が低い」と言い、低い濃度で匂いを感じる事、つまり匂いが強いと同じ意味で使います。
この様に、匂いの分析で注意をしなければいけないのは、多く検出されている物質が必ずしもサンプルの匂いを特徴付けているものでは無い事です。 |
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GC-MS分析結果 |
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さて、それでは黒と赤の違いは?
赤にも黒と同じ様にベンズアルデヒドが検出されています。 詳しく見ると、赤には芳香族エステルや芳香族炭化水素が少量検出されています。 これらの物質の閾値がベンズアルデヒドより低い(匂いが強い)ので、多く含まれているベンズアルデヒドの匂いが感じられなくなっているようです。
赤をジックリ嗅ぐと、ベンズアルデヒドの匂いも少しは感じられますが、やはり黒とは別物の様に感じられます。
この例の様に、少しの匂い物質でメインの匂いをコントロールするのがマスキング技術で、悪臭の低減等に応用されています。 マスキング効果や匂いを強めるシナジー効果等、まだ解明されていない事が多い匂いの世界ですが、自分の鼻で体験することは簡単です。
サンプルの油性マーカー(中字)が近くにあれば鼻を近付けて匂いを嗅ぐだけです。 是非お試し下さい。
「百聞は一嗅ぎに如かず」
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