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第21回 |
焦げ臭もおいしさのもと?- クレゾール類の香り |
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昔は鍋が焦げ、食べ物を台無しにしてしまうことがよくありました。 最近の調理器具は進歩して、昔の様に鍋が焦げるようなことは少なくなりましたが、それでも焦がしてしまうことは時々あります。
焦げるとまずくなる食品でまず頭に浮かぶのは、カレーのルーです。 一日置いたカレーを食べようとガスコンロで温めていて、少し目を離した隙に焦げてしまったカレーの味は、薬品臭にも似て今も忘れられないくらいまずいものでした。
では、この焦げた時の臭いの正体はいったい何でしょう? 以前焦げたカレーを分析したことがあるので、その分析結果を図1に示しました。
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図1. 焦げたカレーのGC-MS分析結果 |
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図1の様に、焦げたカレーからはフェノールやクレゾール類そしてキシレノール類などが検出されています。 実は、これらの物質が存在すると焦げ臭を感じ、ある濃度以上に存在すると薬品臭の様に感じてカレーをまずくしていたのです。
では、この「焦げ臭」は、食べ物をまずくするだけの異臭物質なのでしょうか? 実は、皆さんご存じの燻製食品では、肉や魚の生臭さをマスキングする(感じにくくする)香辛料の様な役割をし、おいしさに関して重要な働きをしているのです。
フェノール類は、木のチップを燻すと生成する煙の中に含まれています。 この煙が、肉や魚の表面に付着し、フェノール類が表面から肉に溶け込みます。
昔は、煙の中のフェノール類に殺菌作用があるので、長期保存の為の防腐剤として燻煙が利用されてきました。 しかし今では、冷蔵庫などの長期保存システムが整備されています。
したがって、現在の燻製の役割は、防腐効果と言うよりは、香辛料の様なフレーバー付与の意味合いが強いと考えられます。 焼き鳥や鰻のかば焼きも、炭火で焼けば垂れた油の煙でよりおいしくなっているのかもしれません。
宮崎の地鶏炭火焼の味は、間違いなく燻製の香りです。
ここで、市販のハムの分析結果を図2に示しました。
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図2. ハムのGC-MS分析結果 |
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図2の様に、クレゾール類 が検出されています。 ハムの燻製フレーバー(フェノール類)成分に関しては、下記文献が参考になります。 文献では、フェノールやクレゾール類そしてキシレノール類が検出されている様です。
ベーコンやウインナーでも同様です。 それ以外にも、日本の食に欠かせない鰹節も燻製食品です。
よく嗅ぐと、鰹だしの香りには、ほんのりと木を焦がした時のフェノール類の香り(臭い)が感じられ、魚の生臭さをマスキングしています。 いつも異臭で問題になるフェノール類ですが、存在する食品によっては欠かせない香りだったのです。
フェノール類が存在しなければ、日本人の味覚の原点である「鰹だし」にも出会えなかったかも知れません。
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