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感じた匂いとその表現に関しては本当に人それぞれで、匂いと言葉の表現が違っていることが多いのですが、ことビタミン臭に関しては、殆どの人で一致している様です。
ビタミン剤の入った瓶を開けた時の匂い、栄養ドリンクを飲んだ時に感じるビタミン臭、私の中では、何故か子供の頃にアリナミンAを口の中で噛んだ時のイメージです。
では、ビタミン臭の原因物質は何でしょう? ビタミン? ビタミン何? ビタミンB1?
実は、ビタミンそのものではなくて、図1の①ビタミンB1(チアミン)の分解生成物が犯人なのです。
分解生成物で強烈なビタミン臭を発する物質は、図1の③ビス(2-メチル-3-フリル)ジサルファイドです。 この物質の閾値は何と10ppq(ppmの千分の一がppb、ppbの千分の一がppt、pptの千分の一がppq)と非常に微量でビタミン臭を人は感じとることができます。
極微量存在してもビタミン臭を感じるので、ビタミンB1が存在すれば自然とこの物質の匂いを嗅いでしまっていたのです。 ビタミン臭イコールビタミンB1臭と勘違いしてしまっても仕方がないのかも知れません。
ビタミンB1は水溶性のビタミンで、構造式を見ても気化し難いことは間違いありません。 気化しなければ人が匂いを感じることはないのです。
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図1.ビタミンB1の分解経路 |
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ビタミンB1を多く含む食品として、豚肉が知られています。 豚肉を水で煮るとビタミン臭の様な特有の匂いを感じます。 これも、ビス(2-メチル-3-フリル)ジサルファイドがキーフレーバーになっています。 と言うことで、逆に香料の分野などではビス(2-メチル-3-フリル)ジサルファイドが、ミートフレーバーやビタミン臭の付香剤として利用されている様です。
不思議なのは、何故人がビタミンB1の分解生成物の匂いに敏感なのかです。 ひょっとしたら数多くの食物から、極微量含まれているビタミンB1を間接的に嗅ぎ分けることを可能にする為なのかも知れません。
ちなみに、コーヒーフレーバーで有名な2-フルフリルチオールは、図2の様に、硫黄がフラン環(図3)の酸素に近い側に結合しています。 匂いはコーヒー様の焦げ臭そのものです。
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図2.コーヒーフレーバー |
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図3.フラン(環) |
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図1の②2-メチル-3-フランチオールはビタミン臭を呈する物質です。 硫黄がフラン環のどの場所に結合しているかで、ビタミン臭になるのかコーヒー臭になるのかが決まっている様です。
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